資料 1 タイ・シンガポール言語教育及び
現職教員研修調査報告
 
�T 調査者:笹島 茂
 
�U 調査期間:2000年12月18日〜23日
 
�V 調査目的:
 1.タイ国の英語教育の実状と現職教員研修の現状に関する情報収集と今後
  の調査協力依頼
 2.シンガポール国の言語教育政策と現職教員研修の現状調査と今後の調査
  協力依頼
 3. RELC (東南アジア地域言語センター)の教員研修の情報収集と今後の調
  査協力依頼
 
�W 訪問施設:
 メディア会社「NATION」
 タイ国文部省
 RELC (東南アジア地域言語センター)
 NIE(シンガポール国立教員研修所)
 シンガポール文部省
 
V 日程:
2000年12月18日(月) 午前,成田発
            午後,バンコク着    
2000年12月19日(火) 午前,メディア会社「NATION」訪問
            午後,タイ国文部省訪問
2000年12月20日(水) 終日移動(バンコクからシンガポールへ)
2000年12月21日(木) 終日,RELC訪問
2000年12月22日(金) 午前,NIE訪問
            午後,シンガポール文部省訪問
            夜シンガポール発
2000年12月23日(土) 成田着
 
VI 報告:
1. メディア会社「NATION」訪問
 予定より早く9時30分にNation新聞社に到着,Kavi Chongkittavorn氏と会う。編集長(managing editor)として忙しいにもかかわらず,時間を割いてくれた。英字新聞を発行し,英語教育の普及に熱心に取り組んでいる様子が窺われた。あまり話す時間がなかったが,研究に対する協力を依頼し資料などを提供してもらった。その後ライブリーに行き,そこでタイ国の英語教育関連の記事を検索した。担当の方は英語が上手だった。しかし,海外留学などの経験はないようである。
 NATION誌はタイでも大手の新聞のようで,英語教育にたいへん熱心に取り組んでいる。英語によるホームページもあり,タイの教育事情などを知る上では貴重なソースとなる。また,バイリンガル教育に熱心でブリティッシュカウンシルなどと協力してインターナショナルスクールを支援している。
 収集した英語教育関連記事によれば,英語は小学校から導入され,英語とITにたいへん熱心に取り組んでいるようだが,教員不足と教員の待遇面の記事が多く,また,国境や地方の教育の貧困さが深刻のようである。まずは義務教育の徹底と教員の確保が中心で,英語教育への取り組みは今後の課題のように感じられた。
NATION誌ホームページアドレス:http://www.nationmultimedia.com/
NATION新聞社で入手できた資料:
�@ インターナショナルスクールのガイドブック
「Opening the Door to a Boundless World through International Education 2001」
�A 「Nation Junior Magazine」(タイの生徒用の英語学習雑誌) 
(ホームページアドレス:http://www.nationjunior.net/)
�B 過去2年間のタイ英字新聞の教育関係の記事内容の見出し一覧:
・教員養成期間を4年から6,7年への延長はオプショナルであるべき
・モデル英語教員の養成の必要性
・タイの教員の英語力不足
・日本人の英語熱に反する英語力のなさ
・小学校教員の英語研修スタート
・教育改革による学習者中心の指導法へのシフトにもかかわらずどうしてよ
 いかわからない教員
・初等教育委員会は2002年までに800,000人の教員と学校職員に対し学位
 を取得させる提案に同意
・教員のモラル,規律を厳しく
・教員の給与は上がるかもしれない
・学習者中心のアプローチは,文部省管轄の教員よりはバンコク市や大学設
 置の学校の教員のほうが理解している
・23,000人の教員が早期退職プログラムに参加
・深刻な教員不足が予想される
・教育改革に関する記事
・科学のモデル教員
・アパレル関係の会社が教員に研修の機会を提供
・教員組合は学校経営の分権化に反対しているが,それは改革の趣旨を理解
 していない
・高等教育における教員不足
・村人が学校の教員の半数の解雇の要求
 
2. タイ国文部省訪問
            
 13時30分に文部省の教員研修局(teacher education development)を訪ねる。Woraintrara氏と他3人の方が同席し情報交換をする。たいへん親切に応対してくれた。若い二人の方はあまり英語が話せないようだった。(あるいは,遠慮していたのかもしれない。)会談内容は以下の通りである。
 公的には英語指導は小学校5年生から行なっている。コミュニケーション能力を養成することが主眼であるが,実際はあまりうまくいっていないようだ。学校や地域によってまちまちであり,レベル設定なども具体的にはされていない。教育全体にかける予算もない。欧米流の学習者中心のカリキュラムを目標としているが,現在改革中であり,リサーチも進行中のようだ。とにかく「よい教員」の養成を課題としている。
 クラスサイズは40〜50人で,授業が荒れたりすることはないと言い切った。授業は英語で行なうのが理想であるが,タイ語でほとんど行なわれているのが実状のようである。コンピュータなど教育機器の利用は積極的に推進している。学習項目のスタンダードは定めているとのことであるが,具体的な資料はタイ語のため手に入らなかった。
 教員研修はこれから整備していく。現職教員研修も800,000人が対象となるようであるが,内容も短期のコースに限られ,それが直接昇進などに結びつくようなものではないらしい。研修内容は,英語力や指導法に力点があり,どう教えるかがもっとも重要な内容であるようだ。現在改革を進行中である。2002年までには新しいシステムが整う予定とのことである。
 教員全体の地位や待遇の水準は低く,高めることが課題であり,それとともに教員の資質向上のための研修プログラムを設定しようと計画している。教員の海外留学などの機会はほとんどない。わずかの選ばれた教員のみが対象となっているようだ。教員評価システムは特に設定されていない。教員は伝統的に道徳心があるので,教員を査定し,ダメ教員を排除するようなシステムは必要ないとのことである。今後の協力を依頼した。不明な点は今後もemailなどで尋ねられる。また,今後希望があれば,授業参観や教員インタビューなどもできるとのことである。
 総じて,英語教育は発展途上という気がした。NATION新聞社でバイリンガル教育に熱心に取り組んでいる話をしたら,文部省としてはとてもそんな段階ではないとの返事だった。英語教育は必要だが,そのために費やす人も金もないと冷ややかである。ただ現在の教育改革が成功すれば,ITと英語教育を重視しているので,大きく変わるという印象を持った。
その後書店に出向き英語教科書を購入した。英米のテキスト構成や文法を中心とした教科書が多かった。特に目新しい教科書はなかった。
 
収集資料:
�@ 生徒の到達度スタンダード(タイ語)(タイ語)
�A Case Study on Major Policy and Curricular Issues - Leading to Reform inTeacher Education and Training
�Aの要旨:タイの教育改革のポイントと課題などについての論文
目的: 
 a)  教員研修政策・目標などの調査
 b)  社会経済の影響
 c)  ITの影響
 d)  教員養成の枠組みの提示
 e)  教員養成と研修の刷新の提示
 f) 教員養成と研修のコースの提示
 
方法: 政策分析とインタビュー
背景: タイの教育に関する法制度について
 Teacher Act of 1945,Teacher Regulations ACt of 1980,政府の方針:教員養成研修の推進と待遇改善,The National Education Scheme (1992),Teacher Education Reform Plan,Education Reform Guidelines of the Ministry of Education (1996 - 2007),Eighth National Education Development Plan (1997-2001),National Education Act of 1999
教員への影響: 常に新しい知識を吸収し,たえず研修(特に,コンピュー
 タ,インターネット,英語)に励む。
教員養成への影響: 教員雇用システムの改善,教員養成期間を4年から5年に延長,教員の1年間のインターン制度導入,一般教養の必要性とITと英語の必要性,設備の充実,教員研修機関の充実
教員研修への影響:800,000人が研修を受ける,ITの利用推進
他:都市と地方の隔差解消
問題解決に向けて: 雇用改善プロジェクト(教員不足解消,国境地帯の教
 員用プログラム,科学と数学教員雇用プロジェクト,教育学部への入学),
 教員研修カリキュラム(5年制,スタンダードの設定,教育経験の重視,
 インターン制かライセンス前研修制,教員と教育職員と異なるプログラム,
 教員研修の品質保証,学習者中心アプローチ),資質向上(教育の品質保
 証,仮免許→インターン→雇用,教員研修機関の評価,職階制,資質向上,
 教員の昇級と向上,教員研修機関の向上
教育改革実践の考え: 教育はいつでもどこでもおこる,教員を支援し,学
 習者中心,実践重視と総合的なアプローチ,真の評価
実践: ケーススタディの実施,モデル教員の認定,教員研修機関の資格と
 基準
提言: 教員の最低限の能力評価と地方の協力,5年制への教員養成期間の
 延長,教員の質と待遇,施設設備の充実,現職教員研修(ITと英語),カ
 リキュラム改善(考える力,実生活から学ぶ,技術,コミュニケーション)
 
3. RELC (東南アジア地域言語センター)訪問
                
 10時にRELCのRenandya氏を訪ねる。Rajan氏が施設案内をしてくれた。RELCは休暇中で学生や教員は少なかった。LL教室,コンピュータ教室,遠隔通信施設(ヴェトナムや早稲田大学などと行なっている),図書館などを見学した。施設が優れているという印象はないが,経営に熱心という印象がした。公的機関でありながら,企業努力が要求されているようだ。その後休憩室で二人のカナダ人講師と話す。カナダとRELCの提携による学生の短期英語研修で来ているそうだ。その後Renandya氏と現職教員研修について話す。
 
Renandya氏の話の内容:
 RELCでは,現職教員研修に関して基本的に資格を与えるためのコースが設定されている。現職教員研修としては,東南アジアの各国から2名ほど選抜されてコースに参加しているそうだ。その他にディプロマを与えるコース,MAを与えるコースなどが設定されている。内容は,英語の知識,指導法,教材,評価などが基本である。その他に英語技能訓練のコースがある。これは教員に限らない。内容はTESOL,応用言語学などにそったものを行ない,通信コース(エディンバラ大学などと提携して行なっている)などもある。3週間の短期コースでは,ESP,テスティング,カリキュラム開発などを行なっている。
 RELCは語学訓練と現職英語教員研修の場であるが,シンガポール内の語学教員なども対象に研修を行っている。すべて官製研修を基本としている。基本的に,一人ひとりの教員のレベルに合わせて研修をプログラムしている。EFL/ESLを特に区別して実施してはいない。研修の内容は基本的にニーズに応えて実施しているので,そのコースにより多少変わるが,英語の知識,技能,指導方法,カリキュラム,教材,評価など,プログラムにある通りのコース設定を行なっているという。
 シンガポール現職教員は年間100時間の研修を受けられる。研修内容は政府の意向を受けて,それに応じて,教授法,文法,知識などをプログラムする。その研修に参加したものは資格を与えられる。(養成プログラムも同様に実施されている。) 
 RELCは基本的に語学研修所であり,そこを利用する団体のニーズに応えて,さまざまなプログラムを企画実施している。資格を与えるコースもあれば,単に語学演習のコースもある。日本では,早稲田大学,青山学院大学の学生なども受け入れている。SEAMEO(東南アジア文部大臣機構)の語学研修や,シンガポール文部省と提携した英語他語学研修プログラムなども行なっている。しかし,その場合スタンダードを定めたり,資格を認定するのは大学である。RELCはそれをサポートする役割として機能している。現在のRELCの課題は予算である。とにかくいろいろな所と提携して予算を集めることが先決であるそうである。
 
収集資料:
�@RELCのプログラム案内
�AAnnual Report
�BDirectory of English Language Scholars and Researchers in SEAMEO countries
�CLanguage Instructional Issues in Asian Classrooms
�DLanguage Teaching -New Insights for the Language Teacher
�ELanguage in the Global Context: Implications for the Language Classroom
�FGuidelines(RELC発行のESL/EFL実践に関する研究雑誌)
�GGrammar Matters(シンガポール英語授業の教科書)
 
4. NIE(シンガポール国立教員研修所)訪問
 
 10時にナンヤン大学内にあるNIE(National Institute of Education)に到着する。まだ移転したばかりの新しいキャンパスで,2001年1月から学生を迎えてスタートするそうである。現職教員研修担当のChong Tian Hoo氏と英語(もちろん公用語としての英語)担当のMary Ellis氏がいろいろと質問に答えてくれた。この2001年から新しい教員研修制度をスタートするそうで,話を聞いた限りにおいては,相当充実している印象を受けた。
 シンガポールはバイリンガリズムを推進している。すべて英語と母語という図式であり,特に英語教育に関する課題はいかにスタンダード(英国ケンブリッジを標準)に近づけるかである。そのために文法能力をたいへん重要視している。外国語教育に関しては優秀な学生で希望者のみを対象に日本語などを教えているそうである。クラスサイズは40人程度で日本と変わらない。教育にかける予算は防衛予算の次にあり,相当重要視している。
 教員研修は年間100時間の研修時間を保証している。内容は教科だけに限らないが,常に教員の資質向上を推進しようとしている雰囲気がある。それは,教員の昇進と研修が結びついているからであろう。研修内容は,資格中心であり,知識と技能の向上に研修の目的をおいている。基本的に単位を取得して資質を高めていくというシステムである。たとえば,(実態は正確にはわからないが)英語の教員にはテストが課せられ,英語力の水準の向上の支援に研修機関が徹底したプログラムを提供していく方針らしい。このテストはRELCが行なっている。しかし,あくまでも教員の資質向上のためであり,それで教員を排除するものではなく,支援するためのものであることを強調していた。
 教員は日本と同様多忙である。しかし,多忙の質が多少日本と異なる。教員の主な仕事はテストの採点や補習など,生徒の学習の支援である。授業運営などで,日本のように学習が成立するかしないかという問題はあまりトピックにはならないという。
 
収集資料:
�@Advanced Diploma/Advanced Postgraduate Diploma
(2001年から始まる新しい現職教員研修プログラム)
�APostgraduate Diploma in Teaching in Higher Education
�BAsian Pacific Journal of Education (NIEの出している雑誌)
�CGeneral Informationとその他のコースの案内
 
5. シンガポール文部省訪問 
 3時に予定通り,文部省カリキュラム担当Lydia Tan-Chia氏とNeo Choon Hong氏,日本語指導担当Tan Soo Thian氏と会う。文部省も新しく移転したばかりで,すばらしいインテリジェントビルディングに驚いた。教育にかける予算の違いにたじろぐばかりである。 
 広報担当Alexander Ho氏の案内でミーティングルームへ移動した。きちんと設定されていたのにまた驚く。すぐにLydia Tan-Chia氏が用意してくれたシンガポールの教育システムの説明が始まった。説明の要旨は,シンガポールの言語政策,カリキュラム,標準英語の促進,英語教員の育成などである。印象に残った点は,よい教員を育成することに相当熱心であるということである。特に,スタンダード英語を指導できる教員,また,母語を指導できる教員の育成にはたいへん力を入れているということである。
 教員養成や研修に関して国が統制しているのではないかという印象をもったので,その点を質問すると,「教員を支援している」ということを力説していた。教員評価も「排除」ではなく,あくまでも「支援」である。教員は最新の知識や情報につねに身につけておく必要があるということらしい。さらに,授業も生徒を引きつけるものでなくてはいけない。そのためには教員が資質向上につとめることは当然であり,それを援助をする体制が大切だとういうことのようである。あくまでも教員の自己研修を尊重する。文部省が教員を評価するわけではない。校長が2年おきに評価し,その評価は教員に知らせるという透明性のあるシステムである。
 日本語教育がシンガポールではたいへん人気があるそうだが,まだ一部の優秀な生徒だけが学ぶことができる言語である。シンガポールの教育は厳しい選抜である。その選抜をくぐり抜けた生徒でも何割かは途中で日本語をやめてしまうそうだ。生徒は日本にも短期の研修に来たり,日本との交流を図っている。
収集資料:
�@An Overview of Education in Singapore
�ATELL(Teaching of English Language & Literature)という雑誌10数冊
  (文責:笹島 茂)
 
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